■たった5人でスタート
「社内で、『人さらい』と呼ばれています」
アイリスオーヤマLED事業本部の石田敬執行役員本部長は苦笑いする。
同社が法人向けのLED照明事業を展開するため、東京に事業本部を構えたのは2010年夏。最初はたった5人の本部だった。しかしLED照明の法人需要はコンビニ、スーパーからホームセンター、ドラッグストアに広がり、工場やオフィスでも引き合いが増えている。業容の拡大に合わせて仙台の本社などから人をかき集め、今では120人を超える大所帯になった。
12年の国内LED照明市場は約5200億円。パナソニック(シェア24%)、東芝(同15%)、遠藤照明(同6%)、アイリスオーヤマ(同5%)の大手4社で市場の43%を占めている。
LED照明の消費電力は白熱電球の10分の1で、寿命は蛍光灯の3~4倍。環境性能の高さが注目されていたが、問題は価格だった。08年にパナソニックが発売したLED電球は1個9800円で1個100円の白熱電球の100倍。一般家庭で手が出せる価格ではなかった。
しかしシャープや東芝との価格競争の中で09年には4980円まで下がり、普及が始まった。アイリスオーヤマは10年、2980円の製品をひっさげて参入した。
もっと早い段階での参入も可能だったが、同社は2980円で売れるところまで原価が下がるのを待った。この値段に大きな意味があったからだ。石田本部長が解説する。
「1日に5.5時間という平均的な使い方をすると、年間2800円、電気料金が安くなる。100円の白熱電球を2980円のLED照明に変えても『1年で元が取れます』という売り方ができる。そのタイミングを待ったのです」
■規格論争、震災で吹き飛ぶ
安くて品質の安定したLED照明を作るノウハウは十分に蓄積していた。02年ころからガーデン用品として冬場の庭を飾るLEDのイルミネーションを生産・販売してきたからだ。
園芸用品が売れない冬場をしのぐための苦肉のアイデアが当たり、青や白のLEDを枯れた庭木に巻いて飾るのが日本の冬の風物詩になった。アイリスオーヤマは中国の大連に組み立て工場を作り、05年にはホームセンターの電飾市場で5割のシェアを握った。
アイリスオーヤマなどの新興勢や海外メーカーの攻勢に危機感を募らせた大手は10年、LED照明の規格を日本仕様に統一するよう政府に働きかけた。「安全」を理由に日本独自の規格を作り、世界規格で安いLED照明を作る新興勢を閉め出す狙いとされた。
しかし11年3月の東日本大震災で規格論争は吹き飛んだ。電力不足が深刻になるなか、安いLED照明が飛ぶように売れ、デファクトスタンダード(事実上の業界標準)になってしまったのだ。
国内でのLED照明の普及はこれからが本番だ。12年の照明機器の出荷金額は1兆1000億円であり、LED照明はようやく半分に達したところ。設置ベースで見れば、まだ2割に過ぎない。
「ウチが営業をかけると、大手が目の色を変えて潰しに来る」(石田本部長)
まだLED照明が普及していないオフィスや家庭を巡り、大手と新興勢の市場争奪戦はますます過熱しそうだ。
(編集委員 大西康之)
( 2017年5月12日14:15に日経産業新聞から転載する)